農業体験 4日目

四日目。午前中は岡村さんところで米麹づくりの見学。高温高圧で蒸したあと台の上で冷まして麹菌をふりかけてまた冷蔵庫に入れる。

午後は一日目にお会いした吉原さんが借りている土地を、草刈り機を用いて除草。草刈り機は重たくて刃が高速回転する。扱うのは少し怖かったのだが、いざ扱いの手順を覚えて使いだすと、茎の太い雑草も面白いほど切れていく。でもそれ故に調子に乗りそうになる自分もいて、鋭利な武器や優れた技術を手にした者の責任の重みもずっしりと感じるのである。何より自分がケガをしたくないから。吉原さんはこの土地を大豆畑にする予定だそうだ。

午後は吉原さんに岡村さんも加わって五人で食肉加工場の跡地を見学に行った。吉原さんはここを改修して食肉加工場にするという。古びた装置や自転車を前に吉原さんや野村さんが会話を交わすのを聞いていて、生まれ出でようとしている大きな流れの中に自分がいるのがよくよくわかった。朝来市の人口は、2015年現在で約三万人。10年後には一万人にまで減ってしまうという。そんな過疎化高齢化が進む一方の地域に一鍬振り下ろしてやろうとする人たちがいる。ひとのいないところで、ひとの熱量に触れる。こちらまで沸々と血が湧いてくるようだ。この日、地域おこし協力隊の高田さんと初めてお会いした。彼は内田先生の著書もよく読んでいて、合気道にも関心を持っているようだった。門人として嬉しい。しかも神戸を遠く離れたところで。

三日目。午前中は大阪の豊中市から小学生約70人が岡村さんの田んぼでの泥遊びと川遊びをしにやってきた。私たち三人の役割は川で子供たちを見守ること。無邪気なはしゃぎっぷりに圧倒されたあとに、小学生にも支給されたお弁当をいただく。お米は岡村さんの育てた38種の雑穀米。

水田の除草作業
水田の除草作業

午後は野村さんの仲間の中原さんの田んぼに行き、除草及び空いた箇所の田植えをさせていただいた。水田の泥は思いのほか重く、何回か転んで泥まみれとなったが、田舎暮らし三日目ともなるともう気にはならなかった。

鹿肉入りチーズオムレツ
鹿肉入りチーズオムレツ

二日目はじゃがいもの収穫。畝の両脇からシャベルを入れて茎を掘り起し、地中で成長した芋を掘り出す。野村さん亀岡君と三人がかりでこの作業を行う。地中になかなかシャベルがうまく入らなかったが、少しずつ入るようになり、三人息を合わせてジャガイモを収穫できるようになってきた。

収穫したじゃがいも
収穫したじゃがいも

15時すぎに怪しかった雲行きから本降りとなり、中断。温泉に行き汗を流したあと、食材を買って夕食をつくる。亀岡君が中心となって鹿肉のチーズハンバーグをつくった。弾力があって癖がある。チーズのトッピングは私が所望したものだが、意外に合うかもしれない。

野良仕事の後の美味しいご飯
野良仕事の後の美味しいご飯

 

6月29日月曜日8時14分、軽快なエンジン音の気動車に乗って、兵庫県朝来市は竹田駅に到着。改札を出ると、野村さんが待っていた。野村さんは私と同じく合気道凱風館の門人であり、今年の春から朝来市で農業の修業を始めている。軽トラに乗り込んで開口一番、野村さんは言う。「友人が仕掛けたワナに鹿が一匹捕まったらしい。見に行こう。」

01-01
乗ってきた気動車。

野村さんの住居に一旦向かい、一足先に朝来入りしていた亀岡君を乗せて軽トラは現場へと急行。そこに先着していた吉原さんという男性と共に山の斜面に分け入る。この方は総務省のプロジェクト「地域おこし協力隊」で、鹿や猪の狩猟で生計を立てようとされている。そこにいたのは確かに野生の鹿だった。20㎏は超えているらしい。樹の幹に括り付けられたワナに足首がひっかかり、何とか遁走しようと四方にもがいている。吉原さんは鹿の正面に回り込み、鹿の胸を何回か槍で突いた。鹿は胸から血を流し、苦しげな鳴き声をあげて逃げようとするも次第に力尽きていく。やがてその場に横たわり動かなくなった。私は鹿の足首を持って吉原さんと一緒に車のある場所へと戻り、荷台に鹿の死体を載せた。動かなくなった小鹿はずっしりと重たかった。

野村さんと吉原さんの軽トラは、野村さんたちが農業上の「師匠」と仰ぐ岡村康平さん宅の裏庭へと向かった。そもそも野村さんが農業を始めるきっかけとなったのが、高校の同窓会での岡村さんとの再会だそうだ。化学肥料を一切用いない農法で「ありがとんぼ農園」を営んでいる。何とご自宅が岡村さん自身の手作りだそうで、ここに奥さんとお子さん四人とで暮らしている。

最寄りの小川で吉原さんが鹿の腹をナイフでかっさばいて臓物を取り出し、血抜きをした。それからナイフで吉原さんの指導の下、野村さんと亀岡君、私とで裏庭で鹿の解体作業に当たった。鹿の膝関節の下にに切れ目を入れて皮を剥ぐ。胴体と脚を切り分け、更に部位毎に肉をバラバラにして野村さん宅に持ち帰る。庭の水道でそれぞれの部位を洗って調理しやすいサイズに切りさばいていく。筋肉の付き具合にうまく添えると楽に包丁を入れることができる。見た目も不器用な自分が切った割には美しい。この作業はなかなか面白くて、はまってしまった。自分自身の身体もこうした筋肉が折り重なってできていることを想像して、実際の自分を表現する身体と、頭の中にある概念としての自分との隔たりを想った。解体した肉は塩麹漬けにしたり、クッキングペーパーに包んで冷蔵、冷凍保存したりした。

畑の具合を見ています。
畑の具合を見ています。